観世九皐会の定例公演も無事に終わりました。
私は難曲の歌占の地謡でしたが、なんとか皆で難所超えホッとしました。
blogにも書きましたが、言葉の意味を知らなければ、非常に力強い変化に富んだクセの謡いで、仕舞も長く複雑で面白いのであります。字で読むと怖い描写を怖くないようにしているところが妙であります。
さて、あっという間に九皐会別会も近づきましたので、再度ご案内を致します。
私のブログを探りますと、2009年の自主公演の時に、記事を書いてあります。
ブログの左下の過去記事検索欄に「望月」と入れて検索いただきますと、10回に渡って長々書いております。
興味のある方は、どうぞ走り読みしてください。
後に、研究者の方々の書いている記事色々を読みまして、この時の疑問はあらかた解消しております。
この望月は、長い伝承のうちにいろいろ改訂がなされて来ている台本だという事。
特に現行の観世流台本と他流とでは、セリフなどに差異があるのです。
当時悩ましかった、13年問題(事件が起こってから13年と観世流現行台本にある)はいい例でありますが、これもやはりそうした昔の改編によるものと研究者の方が書いておられました。
他流では、主人公の小沢刑部友房の主君、安田の荘司は、従兄弟と口論の末打たれ、そのため京にいた小沢友房は、帰りの路地を狙う敵がいるために、信濃に戻れずに、琵琶湖のほとり守山の宿の兜屋の主になったという台本です。
観世流にはこのセリフはありません。さる仔細候いてと多くを語らずになっております。
今回は、下掛宝生流の森さんが、前回同様にお相手なので、この13年という望月のセリフもないので、他流に近い昔の古い状態での演出に近いかと思います。また、古式ということで現行のラストシーンとも、少し違います。また、後場の獅子舞は、白頭、白覆面と装束も変わり、色々細かなところが通常とは違います。
あと、昔のブログに、この物語の舞台となる兜屋の事が書いてありますが、これ、はたごやの漢字の写し違いが、そのまま兜屋の屋号になったのではないかと。それも研究者が書かれていました。
ということで、知らいないであれこれ書いておりましてお恥ずかしい限りですが、当時は、望月の里やら守山の宿に旅して、少しでも曲に近づこうとしていたのがうかがえます。
自分としては、まさか再演するとは思いもしなかった特別な大曲ですが、お役を頂戴し、このところ小道具などを作り直し乍ら、勉強し直しております。以前とはまた違う舞台が出来ればと思います。
ご来場心よりお待ちしております。どうぞよろしくお願い申し上げます。
以下再掲
能楽 観世九皐会(かんぜきゅうこうかい)一門の特別公演。通称「別会」(べっかい)
特別な伝承曲の秘曲や大曲を上演する九皐会一門の年に一度の催し。
此度、この特別な公演に於いてシテ(主演)の大役を勤めさせていただきます。
今回は望月(もちづき)という重習(おもならい)の演目を、自身十四年ぶりに再演致します。
当日は、能「住吉詣」 狂言「二人袴」能「望月・古式」と能楽の面白さが詰まった公演です。
はじめての方にも楽しめる演目かと思います。是非、能楽三昧のお時間をお楽しみ下さい。
望月(もちづき)あらすじ
主人公(シテ)小澤刑部友房(こざわのぎょうぶともふさ)は、十三年前、信濃国において主君の安田荘司友治が所領争いの口論の末、従弟の望月秋長に討たれた為、難を逃れて遠く琵琶湖のほとり、守山の宿場で宿屋の主人となって静かに暮らしていた。
そこへある日、かつての主君の妻子が、放浪の末に偶然にも小沢の宿に泊まる。敵の一族に狙われ国を出て親子二人放浪の旅をしていたのだ。小澤との再会に安堵し、涙を流して喜び合う。
しかし、その夜。
長らくその事件の咎めを受けて京都に留められていた望月秋長が、ようやく帰郷を許され喜びの帰路についた。そして、恐ろしい偶然に、望月もこの宿屋に泊まることになる。
宿屋の主人、小澤友房は、すぐに仇(かたき)の望月と気がつき、この千載一遇の好機に主君の仇討ちを計画する。座敷芸を見せると偽って、妻は謡いを、子は八撥、そして小沢は獅子舞を披露し望月に近づく。何も気が付かずに帰郷の祝杯にくつろぐ望月秋長。
それぞれの運命が交錯した夜。果たしてその結末は—――。
この演目は、「仇討ち」がテーマになっていますが、芸を見せて敵を欺くという筋立て。その芸を見せるという事が、実は能の主眼になっています。現代劇のような物語の設定と時間軸に進む演出と聞き取り易い台詞調の言葉。古典の概念を覆す芝居仕立ての作品です。
チラシの写真ですが、コロナ禍だから白い覆面のマスクをしている訳ではありません。
能楽秘伝の演目、石橋(しゃっきょう)の中で舞う「獅子」の舞を、この覆面と獅子ガシラの姿で舞うように組み込まれたのが望月(もちづき)という曲です。
この曲を演じる演出は秘伝伝承として伝えられており、初演は紅い覆面を付け演じました。
その時は師匠観世喜之先生、亡父や先輩に教えを受け稽古していただきました。
今回は、白い毛の獅子頭になり、より重厚な演技が求められます。
この能のお囃子方には、人間国宝、大倉源次郎師をはじめ能楽界で活躍する共演者の皆様に囲まれての一期一会の舞台です。是非、観にいらして下さい。
この日は、初番の「住吉詣」(すみよしもうで)と同時上演です。源氏物語の明石の君と光源氏の再会をなんとか一緒にさせたいと昔の人も思ったのでしょう。この作品は、そんな願いを叶えるように、二人は再会を喜びあって二人揃って舞を舞うという原作にない展開です。このツーショットを見たかった源氏物語ファンも人も多いはず。絵巻のような華やかな能です。
そして人間国宝、山本東次郎先生の狂言。二人袴。
なんと楽しい狂言でしょう。余計な説明はいりませんね。たっぷり至芸をお楽しみください。
はじめての方も楽しめる舞台です。お気軽に是非どうぞお越し下さいませ。
広く快適な国立劇場能楽堂は食堂も充実していますので、ごゆっくりお過ごしいただけます。
なお、今回のチケット申込は主催の観世九皐会事務所直接お申込み下さい。一括して取り扱っております。
(平日日中。℡03‐3268-7311 不在の時は留守電。九皐会ホームページからメールも可能です)
今年の春は、是非この公演をご覧下さい。どうぞ宜しくお願い申し上げます。
令和五年 三月 遠藤喜久
私は難曲の歌占の地謡でしたが、なんとか皆で難所超えホッとしました。
blogにも書きましたが、言葉の意味を知らなければ、非常に力強い変化に富んだクセの謡いで、仕舞も長く複雑で面白いのであります。字で読むと怖い描写を怖くないようにしているところが妙であります。
さて、あっという間に九皐会別会も近づきましたので、再度ご案内を致します。
私のブログを探りますと、2009年の自主公演の時に、記事を書いてあります。
ブログの左下の過去記事検索欄に「望月」と入れて検索いただきますと、10回に渡って長々書いております。
興味のある方は、どうぞ走り読みしてください。
後に、研究者の方々の書いている記事色々を読みまして、この時の疑問はあらかた解消しております。
この望月は、長い伝承のうちにいろいろ改訂がなされて来ている台本だという事。
特に現行の観世流台本と他流とでは、セリフなどに差異があるのです。
当時悩ましかった、13年問題(事件が起こってから13年と観世流現行台本にある)はいい例でありますが、これもやはりそうした昔の改編によるものと研究者の方が書いておられました。
他流では、主人公の小沢刑部友房の主君、安田の荘司は、従兄弟と口論の末打たれ、そのため京にいた小沢友房は、帰りの路地を狙う敵がいるために、信濃に戻れずに、琵琶湖のほとり守山の宿の兜屋の主になったという台本です。
観世流にはこのセリフはありません。さる仔細候いてと多くを語らずになっております。
今回は、下掛宝生流の森さんが、前回同様にお相手なので、この13年という望月のセリフもないので、他流に近い昔の古い状態での演出に近いかと思います。また、古式ということで現行のラストシーンとも、少し違います。また、後場の獅子舞は、白頭、白覆面と装束も変わり、色々細かなところが通常とは違います。
あと、昔のブログに、この物語の舞台となる兜屋の事が書いてありますが、これ、はたごやの漢字の写し違いが、そのまま兜屋の屋号になったのではないかと。それも研究者が書かれていました。
ということで、知らいないであれこれ書いておりましてお恥ずかしい限りですが、当時は、望月の里やら守山の宿に旅して、少しでも曲に近づこうとしていたのがうかがえます。
自分としては、まさか再演するとは思いもしなかった特別な大曲ですが、お役を頂戴し、このところ小道具などを作り直し乍ら、勉強し直しております。以前とはまた違う舞台が出来ればと思います。
ご来場心よりお待ちしております。どうぞよろしくお願い申し上げます。
以下再掲
能楽 観世九皐会(かんぜきゅうこうかい)一門の特別公演。通称「別会」(べっかい)
特別な伝承曲の秘曲や大曲を上演する九皐会一門の年に一度の催し。
此度、この特別な公演に於いてシテ(主演)の大役を勤めさせていただきます。
今回は望月(もちづき)という重習(おもならい)の演目を、自身十四年ぶりに再演致します。
当日は、能「住吉詣」 狂言「二人袴」能「望月・古式」と能楽の面白さが詰まった公演です。
はじめての方にも楽しめる演目かと思います。是非、能楽三昧のお時間をお楽しみ下さい。
望月(もちづき)あらすじ
主人公(シテ)小澤刑部友房(こざわのぎょうぶともふさ)は、十三年前、信濃国において主君の安田荘司友治が所領争いの口論の末、従弟の望月秋長に討たれた為、難を逃れて遠く琵琶湖のほとり、守山の宿場で宿屋の主人となって静かに暮らしていた。
そこへある日、かつての主君の妻子が、放浪の末に偶然にも小沢の宿に泊まる。敵の一族に狙われ国を出て親子二人放浪の旅をしていたのだ。小澤との再会に安堵し、涙を流して喜び合う。
しかし、その夜。
長らくその事件の咎めを受けて京都に留められていた望月秋長が、ようやく帰郷を許され喜びの帰路についた。そして、恐ろしい偶然に、望月もこの宿屋に泊まることになる。
宿屋の主人、小澤友房は、すぐに仇(かたき)の望月と気がつき、この千載一遇の好機に主君の仇討ちを計画する。座敷芸を見せると偽って、妻は謡いを、子は八撥、そして小沢は獅子舞を披露し望月に近づく。何も気が付かずに帰郷の祝杯にくつろぐ望月秋長。
それぞれの運命が交錯した夜。果たしてその結末は—――。
この演目は、「仇討ち」がテーマになっていますが、芸を見せて敵を欺くという筋立て。その芸を見せるという事が、実は能の主眼になっています。現代劇のような物語の設定と時間軸に進む演出と聞き取り易い台詞調の言葉。古典の概念を覆す芝居仕立ての作品です。
チラシの写真ですが、コロナ禍だから白い覆面のマスクをしている訳ではありません。
能楽秘伝の演目、石橋(しゃっきょう)の中で舞う「獅子」の舞を、この覆面と獅子ガシラの姿で舞うように組み込まれたのが望月(もちづき)という曲です。
この曲を演じる演出は秘伝伝承として伝えられており、初演は紅い覆面を付け演じました。
その時は師匠観世喜之先生、亡父や先輩に教えを受け稽古していただきました。
今回は、白い毛の獅子頭になり、より重厚な演技が求められます。
この能のお囃子方には、人間国宝、大倉源次郎師をはじめ能楽界で活躍する共演者の皆様に囲まれての一期一会の舞台です。是非、観にいらして下さい。
この日は、初番の「住吉詣」(すみよしもうで)と同時上演です。源氏物語の明石の君と光源氏の再会をなんとか一緒にさせたいと昔の人も思ったのでしょう。この作品は、そんな願いを叶えるように、二人は再会を喜びあって二人揃って舞を舞うという原作にない展開です。このツーショットを見たかった源氏物語ファンも人も多いはず。絵巻のような華やかな能です。
そして人間国宝、山本東次郎先生の狂言。二人袴。
なんと楽しい狂言でしょう。余計な説明はいりませんね。たっぷり至芸をお楽しみください。
はじめての方も楽しめる舞台です。お気軽に是非どうぞお越し下さいませ。
広く快適な国立劇場能楽堂は食堂も充実していますので、ごゆっくりお過ごしいただけます。
なお、今回のチケット申込は主催の観世九皐会事務所直接お申込み下さい。一括して取り扱っております。
(平日日中。℡03‐3268-7311 不在の時は留守電。九皐会ホームページからメールも可能です)
今年の春は、是非この公演をご覧下さい。どうぞ宜しくお願い申し上げます。
令和五年 三月 遠藤喜久