一昨日は鎌倉能舞台さんで能「千手」を勤めさせていただきました。
ご来場賜りました皆様、誠にありがとうございました。
能「千手」は人気曲で、近年重衡を何度かさせていただいておりまして、いつも千手との別れを男心にグッと堪えておりました。
今回は、頼朝の命により重衡の接待を仰せつかった千手が、すっかり重衡に情が移り、しかし、最後は泣く泣く見送る、なんとも切ない別れの曲でした。
考えてみると、我々能のシテ方は、重衡をしたり、千手をしたり、男も女も時により演じるわけです。
それが当たり前なので、今となっては特別意識をするわけでもなく自然に切り替わります。
能は型で演じ、役者の感情に身を任せて即興をすることはしません。それは動きだけでなくて、歌手が興奮してもメロディを外さないのと同様に歌やセリフでも基本的には同じです。それでも多様な型や謡い方があるので型通りだからといって単純という事でもありません。
また本番では、気が入ると、息や型の器に感情より心の下の、底にある、もやもやとした言葉にならない感情の種のような物が、滲み出てくるような感じがします。
これ、役者だけでなく、地謡や囃子からもなんか出て来ます。
それは男でも女でも持っているもの。
人間的なものというか。
そんなものを引き出してくれるのが能なのかなと思います。
なので男女両方の役を自然とやれるのかもしれません。
今回の小書が付くと、舞などが短くなりますが、定型的な舞所や型を省略し、芝居的な所作の型も増えてラストシーンへ向けて集約していく感じがします。
鎌倉能舞台さんは、まさに座敷の様子を間近に見るような作りなので、この最後の僅かな時間をリアルに体感された方も多いかもしれませんね。
ともかくもご来場賜り誠に有難うございました。
さて、今月来月は公演真っ盛りで、日々是精進の毎日です。
また、12月4日(.日曜日)の矢来能楽堂での師走能、全国能楽キャラバン公演の海士(あま)のシテもありますので、一生懸命勤めます。チケット好評発売中です。是非、観にいらしてくださいませ。
海士は、玉の段という海女の玉取り伝説を舞語る有名な場面や、後半には早舞もあり、また小書がついて常の舞とも違い、本舞台だけでなく橋掛りに行ったりと変化に富んでいます。
話も時間軸に進行するので、見飽きない面白さがある人気の演目です。
私が演じるのは、子供の出世のために命を掛け、命を落とし、やがて幽霊となって、大臣となった我が子に再会する母の役どころです。
母の愛は海よりも深いのかもしれません。
そして、我が子の供養により、ついに海士の女は女人成仏を遂げるのです。
親子の情愛が通った切なくも後味の良い作品です。
ご来場お待ちしております。
チケットは、矢来能楽堂まで→矢来能楽堂ページ
*千手の舞台写真、権利関係等もあるので、重衡とのツーショット写真だけup致します。
「二人の運命」という題をつけたいと思います。
では、ありがとうございました。