【出演者変更とお詫び】
観世九皐会1月定例会 1月9日(日)
第二部「絵馬」シテ・遠藤喜久、持病の療養のため、後見が代役を勤めさせていただきます。
前シテ → 駒瀬直也
後シテ → 遠藤和久
誠に申し訳ございません。
何卒ご了解の程、お願い申し上げます。
観世九皐会
病名 S状結腸憩室炎
能楽師遠藤喜久の日常と能のお話
神々の話
1月9日の絵馬公演も近づいて来ました。
今年はお正月休みがなさそうな年の暮れです。
さて解説の続き。
この絵馬の能の後半に登場するのは、伊勢神宮の祭神にして皇室の祖先。皇祖神にして天上世界・高天原を統べる太陽神。天照大神(アマテラスオオミカミ)
そして、天の岩戸隱れに活躍する天照の天宇受売命と天手力男命。
古事記に描かれた日本神話がお話の下地になっています。
ざっくり神話のおさらい
国産みの二柱の神、イザナミノミコトとイザナギノミコト。
イザナミは最後に火の神を産んで亡くなり黄泉の国へ行きます。
その後を追ったイザナギでしたが、黄泉の国で雷を身に纏い蛆が這うイザナギの姿を見て怖くなり逃げ出し、ついに夫婦別れすることになります。
その後、黄泉の国から戻ったイザナギは、黄泉のケガレ落としの禊をして、その時に神々が沢山産まれます。
中でもイザナギの左目からアマテラスオオミカミ(天照大神)が生まれ、高天原の支配を命じます。
右目からツキヨミノ命(月読命)が生まれ夜の世界の支配を命じます。
鼻からスサノオノミコト(須佐之男命)が生まれ、海原の支配を命じます。
ところが荒ぶる神スサノオは問題を起こしてばかり。ついにイザナギに追放されてしまいます。
その後、姉の天照大神のいる高天原に来て、何度も暴れたので、ついに天照大神は天の岩戸に隠れてしまいます。
しかし、太陽神の天照大神がいなくなると世界は暗闇に閉ざされ、禍いが起こりました。
神々は困り果て、天照大神に岩戸から出て来てもらうようにどうしたらよいかと天の安の河原で話合って策を練り準備をします。
やがて天宇受売命が岩戸の前で桶の上に乗り神懸かりになって舞い狂い、衣服ははだけて神々は大笑い。
天照は、自分がいないのに、なんでみんな盛り上がってるの?と、そっと岩戸を少しだけ開けます。
すると岩戸から光が溢れ出します。
そこにすかさず二人の神が鏡を向けて、あなたより尊い神様が現れて盛り上がってますよと囁くと、天照大神は、一体どんな神なのかしらと、さらに外を覗こうと岩戸を開きました。
そこですかさず隠れていた天手力男命が天照大神の腕を掴んで引っ張り出し、岩戸に注連縄を貼って封印しました。
かくして世界は再び光を取り戻した。
というお話。
鏡も注連縄も今日でも神社や神棚で使いますが、神話時代より今に続いています。
能の絵馬の後半は、伊勢神宮の祭神たる天照大神が、この岩戸隠れの故事の再現し、帝の勅使が神の奇跡を目撃するという話の展開になっています。
もし皆さんが、日本の総氏神たる天照大神に出逢えたとしたら。
そして岩戸隠れを目にすることが出来たら、これはもう、大変な奇跡ですね。
後半では、天照大神、天鈿女命、天手力男命の三柱の神が登場し、まずは天照大神が、舞を舞い(中ノ舞)
そして岩戸隠れをしますと、天鈿女命が天照を誘うために(神楽)を舞い、手力男命が(神舞)を舞います。
この三つの舞を立て続けに舞うのはこの曲のみの珍しい演出です。
今回の能は、女性能楽師も出演して頑張ってくれます。
左から手力雄 天鈿女、天照、姥(神の化身)
朝稽古の後の一枚。
私は最初に舞った後、岩戸に隠れるので、残念ながら二人の神々の舞は見れませんが、是非お客様には楽しんでいただきたいと思います。
チケットは観世九皐会まで。
二部の絵馬は、お席に余裕がしっかりありますので、良い席でご覧いただけると思います。
是非、お越し下さい。
なお九皐会事務所受付が、暮れの28日から年明け5日までお休みに入りますので、ご了承下さいませ。
後半の解説 神々の話をする前に、ちと別の視点から見どころを紹介します。
この曲の後半は、天照大神と天鈿女命と手力男命の三人が出でくるわけですが、この三人がそれぞれ舞を舞うという大変珍しい作品構成になっています。
能楽用語としては、
アマテラスがチューのマイ(天照大神が中ノ舞)
ウズメがカグラ(天鈿女命が神楽)
タジカラオがカミマイ。(手力雄命が神舞)
中でもウズメ(天鈿女命)の舞は芸能の起源なんて言われます。
今回はウズメと同じ女性演者の新人、河井さんが勤めます。
能の前半の最後、太鼓が加わり来序ライジョという中入の退場囃子を打ちます。
この囃子のリズムに合わせるように今までと違う、とてもゆっくりしたスリ足で中入りしますが、実は神が飛び去る超高速をスローモーション的に表現しているとも言われます。
神様の化身という事で、登場の時は、大変厳かな真ノ一声(しんのいっせい)という格式ある出囃子で登場し、前半の終わりの中入は来序で退場するわけです。
そして間狂言の後、後半は全て太鼓が入った華やかなお囃子と神様達の三柱三様の舞が見どころになります。
お囃子方は、ずっと演奏しっ放しになるので、この曲はホントに大変です。
お囃子の音楽が好きな方には、たまらない曲です。
今回はまた、笛は今年の私の玄象を吹いていただいた森田流の松田先生をはじめ超手練れのお囃子方での演奏。
掛け声も凄いです。
聞きどころ見どころ満載の囃子となると思います。
生の迫力ある演奏をお楽しみください。
旧暦の話
(新暦)令和四年1月9日(日曜日)に東京新宿区神楽坂 矢来能楽堂 定期公演二部で上演する絵馬ですが、この日は、旧暦で云うと、まだ12月7日にあたります。
そう、明治6年に改暦した現在の新暦(太陽暦)で令和4年の1月1日は、旧暦即ち月の満ち欠けサイクルの暦では、11月29日。まだ秋の終わりということになります。
なぜこの話をしたかというと、絵馬の能で、前半に登場する尉と姥、おじいさんとおばああさんが、冒頭に
「あらたまの春に心を若草の神も久しき恵みかな 霞も雲も立つ春を 去年とは言わん年の暮れ」と歌うからです。
この老夫婦、新春を前に伊勢斎宮の節分の日に絵馬をかける神事に奉仕する二人です。
太陰暦の1月1日は、毎年少しづつ変わります。
一年の日数計算が違うからです。
で、立春は太陽の動きから算出する二十四節気基準なので、だいたい2月4日頃。
で、この前の日が節分。
この日に絵馬をかける神事を行います。
ややこしいのが、立春前に旧正月1月1日になる年もあれば、立春でもまだ12月の年もあります。
これを年来立春と云い
立春なのにまだ去年(こぞ)(12月)の年の暮れと歌ってるわけです。
絵馬のセリフとなったこの歌は、古今和歌集巻頭一番歌の「年の内に春は来にけりひととせを 去年(こぞ)とやいわむ今年とやいわむ」(在原元方)
から引いたのでしょう。
それを登場の最初の台詞謡いに持ってきたわけです。
来年令和四年の立春は2月4日 節分は2月3日
そして旧暦1月1日は、新暦2月1日となります。
なので来年は立春前に旧正月が来るので新年立春ということになります。
なかなかピッタリの日に能の上演が出来ないわけですが、昔の季節感もこの謡いから感じていただけたらと思います。
新しい年の実りと安寧を祈願する絵馬の神事を前半に描く、正月に相応しいおめでたい能です。
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