一昨日寒川神社薪能に参勤しましたが、時折の突風と、雨で演出の変更を余儀なくされました。
また、途中からせり出しのステージから雨よけのある後方まで下がっての後半を上演しました。
結果最後は雨が止みましたけどね。
舞うスペースが限られたので大瓶猩々のツレで出演していた私も、直前に演出の変更指示があり、どうなるかなと思いましたが、無事に終わりました。
雨が強くなって中止にならなくてよかったですね。

薪能って、雨が途中で降ると即中止になる事が多い。
これってお客さん的には、まだやれるんじゃないの?という気がする時もあると思うのですけどね、
雨のロックコンサートなんか体験してると特にね。

お客様が濡れないようにというのは、まず現代的にはとても大切なんですが、演者の使用する能面装束、楽器を守る為でもあるのです。

能面って一つの美術品、工芸品でして。しかも、50年とか100年とか数百年とか、世代を超え時代を超えて受け継がれているものも多いのです。
で、基本防水ではないのです。

例えばその能面は、水彩絵の具のキャンバスのように水に弱い。面の彩色が流れ落ちてしまうのです。

価値ある美術工芸品という点では、モネやピカソの絵を雨の中、雨ざらしにして見たりしないのと一緒なのです。

流れたらまた、書き直せばいいじゃないというわけにはいかないのですね。
装束もそう。
新しいものもあるけれど、100年以上の時代を経たものだってあるのです。
で、基本オールシルクだからね。
雨に弱いのです。
婚礼の白無垢の晴れ着を想像していただくと良いかな。

またお囃子の道具も木と皮なので、やっぱり雨では、音の調子まで変わってしまうのです。
囃子方の楽器も、江戸期よりの伝来物なんて普通にありますもんね。
ストラディバリウスのバイオリンを雨の中で弾かないのと同じです。
能に使われている面や装束や楽器の価値がまだまだ世に知られてないからね。ピンとこない人も多いと思いますが。 
どれも預かり物なんです。
前の世代から後の世代への。
使い捨て文化ではないんですね。
皆んなで守って後世に残そうと思ってもらえるといいです。


というわけで、雨雲がすぐに切れない時は、お客様と舞台双方の頃合いで中止になる事が多いのですね。 
お客様にもご理解賜りたいところです。

一昨日私は大瓶猩々のツレでしたけど、実は装束を着ている演者はほとんど濡れない。
なぜなら生身で外に出ているのは、わずか手の甲の一部位、あとは全身すっぽり幾重にも面装束に包まれているので、全く濡れないのです。
ガンダムやエバンゲリオンの中に入って身体を操縦している感じに近いかな。
足は舞台が濡れていると、足袋が引っかかったり滑るのでわかります。
面かけるとほとんど見えないので、曲により、飛んだり跳ねたり、クルクル回ったりなんて時は、こりゃ危ないなんてこともありますね。


というわけで、基本雨の中ではやらないというわけでした。