ominamesi1

先日の公演の後日談になるが、
稽古場で、女郎花の観能の感想を伺っていたら、
社中の女性の一人に、あれは純愛ラブロマンスではないかとの感想をいただいた。

能では、男が留守の間に訪ねてきた都の女性が、男が心変わりをしたと誤解して命を絶ち、男も後に続く話になっているが、若い純情純真な男女にありがちな、すれ違いによる悲劇で、女性は都の少し身分のある純な女。男もひどく誠実な男性で、それゆえに後を追ったと。そのように見えたとの事だった。

純愛ねえ。。。と、私が珍しげに呟くと、
「先生も若い時はきっとそうだったと思うのです。若い頃は、ちょっとしたすれ違いや誤解で、傷ついたり喜んだり思いつめたりといった恋愛をしていた頃があったと思うのですよね」

そう云われて、思わず遠い目をしてしまった(笑)。
昔の記憶を探してみると、確かに自分にもそんな年頃があって、しかし、年とともにいつの間にか分別もついてしまうものだ。

しかし。
あの頃の自分であれば、女郎花の男女のような結末があっても、おかしくはないかもしれない。

と、いささか錆び付いた自分を自覚させられて凹んだが、そうやって観ると、この凄まじくもある話が若々しい男女の美しい浪漫のある話にも見えてくる。


実を言えば、私自身は、この曲を演じる際に、死してなお離れぬ執心の凄まじさに、人間の男女の業や欲望に触れた気がして、救われない気分になっていた。
能で演じると、それがいくぶん和らぎ、女郎花の可憐な黄色の花が咲くが、その花の咲く土中に深い闇を見ていた。

なので、この感想を聞いて少し気分が晴れやかになる思いだった。

人は、見たい景色を観る。

社中の女性が見た景色は美しかった。

そして、私が見た闇は、もしかしたら自分自身の闇であったかと、いささか愕然としながら、舞台を振り返った。(了)

女郎花編は、これにて完結。
 ありがとうございました。